もしかして・・・適当に選んでない? 猫のフード選びの基準 【獣医師がやさしく解説】

もしかして・・・適当に選んでない? 猫のフード選びの基準 【獣医師がやさしく解説】

「なんとなく」で選びがちなキャットフードですが、猫の健康を守るためには原材料や栄養バランス、嗜好性など多くのポイントを確認する必要があります。本コラムでは、猫のライフステージや体質に合ったフードの選び方を7つの視点から詳しく解説。実際の相談例も交えながら、毎日の食事が猫の未来に与える影響についてお伝えします。大切な愛猫のために、今のフードを見直すきっかけにしてください。

そのフード、本当に愛猫に合ってますか?

「CMでよく見るから」
「パッケージがかわいかったから」
「SNSで話題になっていたから」
そんな理由で、キャットフードを選んで
いませんか?

猫は言葉を話しませんが、食事の好みや
体調の変化を通して、きちんとメッセージを
伝えてくれています。

健康的な生活を送るためには、食事が土台。
その食事を「なんとなく」で決めてしまうと、
後々の体調不良や病気の原因にもつながります。

実際、動物病院を訪れる猫の中には
「適した食事が選ばれていなかったこと」が
原因と思われるトラブルも少なくありません。

便の調子が悪い、体重が急に減った、
毛並みがパサつく、食欲がない……
こうした変化はすべて、体の内側からのサイン。
フード選びが影響している可能性があります。

フードは毎日体に入るものだからこそ、
慎重に選ぶべきです。高価なものが
必ずしも良いとは限りませんが、
「うちの子に合っているかどうか」は
しっかり見極めてあげたいところです。

今回のコラムでは、猫のフードを選ぶ際に
ぜひ知っておいてほしい7つのポイントを
ご紹介します。どれもすぐにチェックできる
内容ですので、今日から実践可能です。

猫と暮らし始めたばかりの方や、保護猫を
迎えたばかりでフード選びに悩んでいる方の
参考になれば幸いです。


 

point1. 原材料をチェック

フード選びでまず確認すべきは「原材料」。
どんな食材が使われているかで、
フードの質が大きく変わります。

理想は「ヒューマングレード」。
つまり人間も食べられるレベルの
食材が使われているフードです。

また、猫は本来肉食動物。植物性タンパクよりも
動物性タンパクを多く含むフードが適しています。
「チキン」「マグロ」「サーモン」など、具体的に
書かれているかどうかをチェックしましょう。

添加物や着色料も注意が必要。
なるべく無添加、保存料の少ない
シンプルなフードが理想です。

「副産物」や「ミール」と書かれている
原材料は、どんな部位なのか曖昧な場合も。
成分表示は多く入ってるものから順番に記載するルール。
最初の数行をしっかり見て、

「何を一番多く含んでいるのか」を
見極めましょう。


point2. ライフステージに合わせた栄養バランス

猫の年齢やライフステージに応じて、
必要な栄養バランスは変わります。

たとえば、子猫にはタンパク質と脂肪が
豊富なフードが必要です。筋肉や内臓、
皮膚の発達に不可欠な栄養素が含まれている
子猫用フードを選びましょう。

一方、成猫は適度なエネルギーと
安定した栄養バランスが求められます。
体重維持や免疫力アップが目的になります。

シニア猫になると、代謝が落ち、腎臓や
消化器の負担も気になります。
低リン・低脂肪で、消化の良いフードが◎

「全年齢対応」と書かれたフードもあります
年齢に応じて必要な栄養素は異なりますので、
ライフステージに合ったフードを
選ぶのもおすすめです。


point3. アレルギー・食物不耐性に配慮

人と同じように、猫にもアレルギーや
食物不耐性があります。

代表的なアレルゲンは、小麦、トウモロコシ、
大豆などの穀類。これらを避けた「グレインフリー」
のフードは、アレルギー予防にもつながります。

また、一部の猫は特定の肉や魚に反応する
こともあります。新しいフードを与える際には、
少量からスタートして、便の状態や
皮膚の赤み、かゆみなどの異変が出ないか
確認しましょう。

消化吸収が難しい猫には、消化酵素が
加えられているフードや、加水分解された
タンパク質を使用したフードが向いています。

「なんとなく体調がすぐれない」とき、
まず見直してほしいのが食事です。


point4. フードのタイプを選ぼう

キャットフードには主に2種類あります。
ウェットフードとドライフードです。

ウェットフードは水分量が多く、香りも豊か。
水をあまり飲まない猫にとっては
水分補給にもなり、尿路や腎臓の健康を
サポートします。

一方、ドライフードは保存性が高く、
コストパフォーマンスにも優れています。
硬さがあるため、歯石の付着予防にも
一定の効果があります。

どちらか一方に偏るのではなく、
ミックスで与える方法もおすすめです。

たとえば朝はドライ、夜はウェットなど、
生活スタイルに合わせた組み合わせが可能です。
猫の好みや体調、飼い主さんの生活に合った
バランスを見つけましょう。

一つのフードだけにせず、
さまざまな種類のフードを選ぶと
食事の幅が広がります。


point5. 嗜好性を大切に!

どんなに栄養価が高くても、猫が
食べてくれなければ意味がありません。

猫は香りや食感にとても敏感な動物です。
パサパサした食感や、苦手な香りのフードは
見向きもしないことがあります。

日頃から「どの味をよく食べるか」
「どんな形状が好きか」など、
猫の好みを観察することが大切です。

また、好き嫌いが激しい猫には、
香りが強めのフードや、嗜好性の高い
ウェットフードを混ぜると食いつきが
よくなることもあります。

「食べないから」と言ってすぐに諦めず、
好みに合わせた工夫をしてみましょう。


キャットフードの総合栄養食とは?

フードのパッケージに「総合栄養食」と書かれて
いることがあります。これは、猫にとって
必要な栄養素がすべて含まれているという証拠。

このフードと水があれば、それだけで健康的な
食生活が維持できるように設計されています。

日本ではAAFCO(米国飼料検査官協会)の
基準に基づいて表示されており、
一定の栄養基準を満たしていることが保証されています。

選ぶ際には、裏面の成分表だけでなく、
「総合栄養食」の記載があるかも必ず確認を。

特に初めて猫を迎える方にとっては、
栄養バランスのとれたフード選びが
安心・安全の第一歩になります。

「総合栄養食」の記載がなくとも
AAFCO(米国飼料検査官協会)の
基準に基づいてる旨が記載されてる場合も
総合栄養食と同義となります。


キャットフードの一般食とは?

一方、「一般食」と記載されたフードは、
おかずやおやつのような役割を持ちます。

特にウェットフードに多いのがこのタイプで、
食いつきは良いものの、栄養バランスが
偏っているため、それだけでは健康維持に
必要な栄養が足りません。

「毎食この一般食だけを与えている」
という場合は、栄養不足や体調不良の
リスクが高くなります。

一般食を取り入れる場合は、あくまで
補助的に。総合栄養食をベースにして、
ご褒美や食欲不振時のサポートとして
活用するのが理想的です。

猫が美味しく、そして健康的に過ごせるように、
フードの表示をしっかり確認しましょう。

実際にあったフード選びの失敗と学び

ここで少し、動物病院で実際にあった
フード選びのご相談をご紹介させてください。

あるご家庭の猫ちゃんは、見た目も若々しく、
とても元気に見えていました。飼い主さんも、
「よく食べて、毛艶もいいし、問題ないと思う」
と話しておられました。

しかし、健康診断で血液検査をしてみると、
内臓の数値がじわじわと上昇していることが
わかりました。詳しく伺うと、
フードは毎日ウェットフードのみ。
しかも「総合栄養食」ではなく、「一般食」でした。

「だって、これが一番喜ぶから」
「ごはんの時間が楽しみなんです」
――そのお気持ち、よくわかります。

でも、猫は体調が悪くてもそれを隠す生き物。
食べているから元気そう、とは限らないのです。

このケースでは、総合栄養食の割合を増やし、
腎臓に配慮した食事に切り替えることで
数値はゆるやかに改善しました。
飼い主さんも「今まで可愛がっていたつもりが、
逆に負担をかけていたんですね」と
気づきを口にされていました。

逆に、適切なフード選びが功を奏したケースも
たくさんあります。皮膚のトラブルが多かった猫が
アレルゲンを除いた食事に変更したことで、
かゆみが軽減されたり、軟便が続いていた子が
消化の良い原材料に切り替えたことで、
見違えるように元気になったこともあります。

どちらのケースも共通していたのは、
「知ることから始まった」という点です。

まずは、今与えているフードのパッケージ裏を
見てみましょう。「総合栄養食」とあるか?
原材料のトップに何が記載されているか?
見慣れない添加物はないか?

そして、気になる点があれば、
かかりつけの動物病院に相談してみてください。
猫の年齢、体調、生活環境を踏まえて、
最適な選択を一緒に考えてくれるはずです。

「ごはん」は、愛猫との信頼関係を深める
大切なコミュニケーションの時間でもあります。
だからこそ、“今のごはん”を見つめなおすことは、
“これからの健康”を守ることにつながります。


おわりに

猫のフード選びは、毎日の健康を守るための
とても大切な要素です。

高価だからいい、人気だからいい、ではなく、
「うちの子に合っているかどうか」を見極める
視点が必要です。

原材料、栄養バランス、アレルギー対応、
フードの種類、嗜好性、表示内容――
どれも難しいように見えますが、
一つひとつ丁寧に選んでいくことで
猫との暮らしがもっと安心で楽しいものになります。

何より、愛猫が「今日もごはんが楽しみ!」
と思ってくれることが、私たちにとって
何より嬉しいことではないでしょうか。

愛猫の健康と幸せのために、
ぜひこの機会にフードを見直してみてくださいね。